俺はPTバルセロナでのリミテッド・インタビューの中でAVRの黒の強力カードとして《人殺しの隠遁生活/Homicidal Seclusion(AVR)》が挙げられていた時、軽い衝撃を受けた。
なぜなら俺は《人殺しの隠遁生活/Homicidal Seclusion(AVR)》を全く評価していなかったからだ。

俺は最初にテキストを読んだ時に「単騎」と言うデメリットさえなければこれは《ロクソドンの戦槌/Loxodon Warhammer(10E)》であり、それが非常に強力だった事を考えれば、リミテッドで採用されるのでは無かろうかとは考えたが、この「単騎」がどの程度悪い事であるかを測りかねた。
結局、思案しても結論は出ず、俺が特に信頼をおいているMTGプレイヤー3人に聞いたところ、いずれのプレイヤーも

「能力を発動させる条件が厳しすぎる。」

との理由でリミテッドでは採用しかねると言う回答であったため、俺はこれに納得して考えるのを止め《人殺しの隠遁生活/Homicidal Seclusion(AVR)》は《ロクソドンの戦槌/Loxodon Warhammer(10E)》に似た不要物であると結論した。

しかし、PTバルセロナでは黒のトップ・アンコモンにその名を挙げられ、これをピック出来るのであれば(本来は弱くてプレイしたくない)黒をプレイしても構わないとすら評されるほどのカードであり、実際にデッキに投入され、かつ活躍した。

以上の事から、実際には不要物などではなく《ロクソドンの戦槌/Loxodon Warhammer(10E)》の系譜にその名を連ねるに足るカードであった事が証明されたわけである。

同様に《悪魔の顕現/Demonic Rising(AVR)》も強力なカードであると見なされており、先だって黒単タッチ赤をピックした際(http://wenmin0624.diarynote.jp/201205122136171279/)に両方ともピックしていたにも関わらず、俺はどちらも採用しなかった。
前述したように発動条件が厳しすぎて使用に耐えないと判断していたからである。

それはどうやら間違いだったのだが。

そのように前提を置いて話を進めるが、なぜ俺は《人殺しの隠遁生活/Homicidal Seclusion(AVR)》《悪魔の顕現/Demonic Rising(AVR)》の脅威査定を正しく出来なかったのだろう。

デメリットを取り除いた時のテキストはそれぞれ
Homicidal Seclusion / 人殺しの隠遁生活 (4)(黒)
エンチャント
あなたがコントロールしているクリーチャーを1体選ぶ。そのクリーチャーは+3/+1の修整を受けるとともに絆魂を持つ。

Demonic Rising / 悪魔の顕現 (3)(黒)(黒)
エンチャント
あなたの終了ステップの開始時に、飛行を持つ黒の5/5のデーモン(Demon)・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。

びやぁぁぁぁあつよいぃぃぃぃぃぃぃであり、疑問の余地なく強力なカードである。
しかしながら、そこには「あなたがコントロールしているクリーチャーがちょうど1体である場合」(以下「単騎」)と言う条件が付与されていて、それをどう判断するかを考える必要があった。

この時、条件として例えば「このカードをプレイする時、あなたは手札を選んで1枚捨てる」であったり「このカードをプレイする際、あなたはクリーチャーを1体生け贄に捧げる」であれば評価は簡単であったろう。
単にカードアドバンテージを失うか、カードアドバンテージとテンポ・アドバンテージの両方を失うだけなので、それ以降において上記の性能であるならば簡単にアドバンテージを取り戻せると判断されるだろう。

しかしながら「単騎」と言う条件は上記のように単純なものではなく、それまでの展開やその盤面毎に評価が異なるために判断が難しくなっている。

と言うよりも、もっと根本的なところで「単騎」を達成するために、自分がどのリソースをどの程度払わなければならないのかと言う事を評価出来なかったのである。

完全に条件を達成出来ない時のデメリットは比較的わかりやすく、単に5マナを払って墓地にカードを1枚置き、ターンを終える事になる。
これは、ほとんどターンを1t飛ばされる事に等しい。

それでは条件を達成するためにはどのリソースを、どの程度消費する事になるのだろうか。

例えば、相手に干渉されないのだとして「単騎」を維持し続ける場合、未来におけるターンのほとんどのテンポ・アドバンテージを失う事になる。
条件を維持するためには、生物をプレイ出来ないからである。
もちろん、スペルはプレイ出来るのだが、AVR環境においてスペルは弱体であるため、ほとんどの場合はマナを使う事が出来ずにテンポ・アドバンテージを失う事になるだろう。
さらに《人殺しの隠遁生活/Homicidal Seclusion(AVR)》をプレイするためのマナを消費するためにテンポ・アドバンテージを失い、それまでのターンにおいても「単騎」を意識して生物がプレイ出来ないケースがあるかも知れない。

つまり「単騎」を達成すると言う事は、過去・現在・未来の全てにおいてテンポ・アドバンテージを失う事を意味するのだ。

以上は「単騎」を維持するために必要なコストの解説だが、リターンについて見てみよう。
特に《人殺しの隠遁生活/Homicidal Seclusion(AVR)》については「単騎」を達成するために、テンポ・アドバンテージは失うものの、そのテキストから非常に良質なビートを得る事が出来るので、結果的にテンポ・アドバンテージを得る事が出来る。
+3/+1の修整を得た絆魂付きの生物を放置出来るほど戦線に開きがあるのなら《人殺しの隠遁生活/Homicidal Seclusion(AVR)》など関係なくゲームには負けるのであろうし、そうでなければ相手に相討ちを強要する事になる。そうなれば「単騎」を維持するためのテンポ損失は問題にならないのだ。
となれば《人殺しの隠遁生活/Homicidal Seclusion(AVR)》は正に《ロクソドンの戦槌/Loxodon Warhammer(10E)》であり、非常に強力なカードであると言う事が出来る。

では《悪魔の顕現/Demonic Rising(AVR)》はどうなのか。
これも「単騎」を実現するためにテンポ・アドバンテージ、もしくはカードアドバンテージもあわせて失うが5マナ5/5飛行はAVRにおいて良質なビートと呼ぶ事が出来る。
扱い方としては初手から持っている場合ならいずれかのターンをスキップするか戦闘でディスアドバンテージになったとしてもブロックに参加して数を調整し、ソーサリー感覚で使う事になるのではないか。
陰鬱を達成するためにチャンプ・アタックorブロックをしていた事を考えれば、十分にあり得る選択肢だと思える。

両方のカードに言える事だが、プレイに際してはやはり「単騎」の性質上、初手から持っていなければゲームプランが組み立て難いと言うのはあると思う。
これは俺が最初にそれぞれを評価出来なかった最大の理由であるが、使用されているところを見ると、メリットはそれ以上にあると言う事なのだろう。
確かに《悪魔の顕現/Demonic Rising(AVR)》など見方によっては反復付きのトークン生成カードであり、それによって生まれるトークンが5/5飛行ともなれば対戦相手としては頭を抱えたくなるであろうし、使用者側としては少々の工夫をしてでも使いたいと考えても不思議ではない。
特に黒は《骨の粉砕/Bone Splinters(AVR)》《流血の鑑定人/Bloodflow Connoisseur(AVR)》とコモンに生物数を調整する事が出来る機構もあり、発生するディス・アドバンテージさえ(良質のビートを得る事で)気にならないなら、運用は可能であろう。

つまり、今回の俺の間違いは、リスク部分を曖昧な印象のままにしてカードを評価してしまった事であり「単騎」であるとは一体どう言う事なのかを理解していなかった事にある。
運用するためにテンポ・アドバンテージを失うと言う事が理解出来ており、かつそれが《人殺しの隠遁生活/Homicidal Seclusion(AVR)》のテキストによってカバー可能なものであると判断されるなら、使用する事を躊躇う事はなかったであろう。

さらに、全幅の信頼を寄せているとは言え、他人の意見を鵜呑みにし、自分でピックして試す機会があったにも関わらず、それをせず評価を固定させてしまった事も問題だ。
他人に意見を求めて参考にするのは問題ないが思考の明け渡しをしてしまっては進歩がない。
それが質問するプレイヤーを厳選してまで評価を知りたかったカードであるなら、なおさら自身で使用する事によって、実際の場では何が起こるのかを調べようと思うべきであったし、3人に聞いてそれぞれが同じ答えであったから、恐らく正解だろうと思うべきでは無かった。
確かに質問するプレイヤーを増やし、その答えが同一ならば正解である可能性は高くなるかも知れないが、実際にそれが正解かどうかは多数決では決まらないのである。

と言う事で「単騎」について思うところを書いてみた。
《捕食者の計略/Predator’s Gambit(AVR)》は得られるボーナスはあるが、「単騎」にならないとまるで仕事をしないと言うわけではないので、今回は外してある。

まぁ未だに実戦では使った事がないので、評価がどうなるかは使ってみてからだが、それでも評価が難しいシステムをテンポと言う概念で説明しようと試みた事には価値があると思っている。

もうすぐMOでもAVRが実装されるので、試す機会は多くあるだろう。
メンテナンス明けが楽しみである。

それでは皆様のAVR祭りが実り多いものになる事を祈りつつ。

コメント

dds666
2012年5月21日19:58

人殺しの隠遁生活は、自分はスポイラー当初からボム認定していたカードで、実際に使ってみてその強さは想定以上だったカードです。
ただし巨大すぎる弱点として青のバウンスに弱すぎる。bunさんが書かれている通りテンポロスを埋め合わせられるカードのはずが、マジでバウンス一発で超絶テンポロスに持っていかれちゃいます。
まぁ単騎のデメリットとして除去に弱すぎるという点があるわけですが、AVRは除去が弱いのでそのデメリットはさほどではなかったわけのですが……青のバウンスは単騎に対してガチで除去になっちゃうのでそこが癌になるのだと認識しています。

toshiya k
2012年5月21日20:01

久々ですが、お疲れ様です。先週、久々はまさんに誘われ、AVRのリアルドラフトをしました。そのときに、たまたま初手「人殺しの隠遁生活」から「悪魔の顕現」の入った緑黒デッキをドラフトしました。サクって+1/+1になる生物×2を入れたり。
感想はというと、実際デッキは強かったのですが、プレイングが非常に難しかったです。サクった後、1体になった段階でインスタント除去されたりするのがこわくてなかなかサクれず勝機逃したり、結魂プロテクション・ゾンビで終了したり・・・。それで結局1-2・・・(苦笑)まあ、それは私のプレイング力がヘボだったからで、同じデッキではまさんが使ってプレイしているときは、ほぼ負けない感じでした(笑)。
でも、システム的に面白いことは面白いです。。。。

bun
2012年5月21日21:22

お疲れ様です。

>ddsさん
そう言えば名古屋の人は最初から評価が高かった気がします。
俺は効果だけ読むと強そうだけどコスト5マナで、使うとなると序盤が若干マグロ気味なのが気になってうーん・・・って感じでした。
1パン出来ればダメージレースがひっくり返るんで、使われた時は強くて、それで負けた経験はありましたw
でも自分では上記の理由もあって使ってませんでした。
それだけ相談したのが《信頼厚き腕力魔道士/Trusted Forcemage(AVR)》だったって事ですが。

>弱点
言うて、単騎はテンポの失い方がハンパない能力なんで仕方がないかと思いますw
《悪寒/Crippling Chill(AVR)》でも相当ヤバイと思われw

>toshiya kさん
お久しぶりです!お元気にされてましたか?
俺も超・短期ですが東京で暮らしていたので、ご挨拶に伺わせてもらえば良かったと今でも後悔しております。

>デッキ
カードプールが分かっていないと、余計に難しいかと思います。今回は結魂のせいで、ソーサリータイミングとは言え、サイズがアップしたり、回避が付いたりしたりで戦闘が難しい上に、こちらも結魂を考えないといけないので、安易にブロック出来なかったりと難しい要素も満載です。単騎は特にリスクが高いですし。
でも5/5飛行で殴った後にサクリファイスして、エンドフェイズにもう一度アンタップ状態で5/5が出たり、緑の打点高い生物がさらにでかくなって絆魂とか面白そうです。

いつかtoshiya kさんと卓を囲みたいです。
MTGじゃなくてドミニオンとかでも良いですよw

HAMA研の主水(もんど)
HAMA研の主水(もんど)
2012年5月21日21:46

自分の周囲では黒をやるなら《人殺しの隠遁生活/Homicidal Seclusion》がないとスタートできない、という認識で一致していて何人もが実際に挑んでいますがどんなにカードが揃っても2-1止まりだなというところでストップしています。
ナチュラルに単騎になってしまう《悪魔の監督官/Demonic Taskmaster》とかが無双できる数少ないフィールドなんですが・・・。

ちょっと上のコメントの通り、バウンスはもちろん《悪寒/Crippling Chill》に特に弱いですね。
バウンスされる分には状況に合わせたクリーチャーを出しなおすこともできるのでまだマシだったりします。
同様に《牙抜き/Defang》でバカになってしまうのも致命的で、場で磔にされるとデッキそのものが無力化されるので3戦中1回青を踏むとまず負けるな~と。
そこがどうにかなるアーキタイプがあれば・・・と模索中です。

bun
2012年5月21日22:14

お疲れ様です。

黒中心だとどうしても生物が弱いので、3-0するのは厳しい感じですね。
コモンがどこまで行っても《天使の壁/Angelic Wall(AVR)》が越えられなくて、サイズも2/2とか3/2ばかり。
勝てないのも致し方ないと言う気もします。
前回のドラフトで青黒をやりましたが、まぁ青の強い部分があって黒は《グールの解体人/Butcher Ghoul(AVR)》と除去だけって感じのデッキで運良く勝てたって感じでした。

>《牙抜き/Defang(AVR)》
これはオワタ感がw
《牙抜き/Defang(AVR)》にしても弱い《平和な心/Pacifism(M10)》なのに、それにもやられてしまう黒って一体・・・。

黒は殴るのは諦めて、コントロール方向でピックするのが良いかなと思います。
MOでAVRが実装されたらまた試してみようと思っています。

あ。スレ違いですが、主水さんのエントリで《大聖堂の聖別者/Cathedral Sanctifier(AVR)》が強いのを知りました。
あそこからだいぶ他のカードの評価が変わりました。
これが正しいのかはまだ不明ですが、新しい目線を手に入れられたのは嬉しい事です。感謝を。

toshiya k
2012年5月22日15:41

リアルでのAVRは、パワーとサイズがしょっちゅう変わるので、把握が難しいです(涙)。そういった局面局面での戦術だけでなく、大局的な戦略も、両方ともプレイングが難しくなりました。。。やりこんでないとミスが多発しそうです。

もし次回東京にいらっしゃれるときがあれば、是非お声かけてください。
早目に予定教えていただければ、平日夜も含めて調整したいと思います。

今後ともどうぞよろしくお願いします!!

bun
2012年5月22日17:43

お疲れ様です。

結魂する、しないの判断やそのための下準備を考えると戦闘で生物を失ってはダメなのか、それともライフを守ったり、相手の結魂への準備をさせないために生物同士の交換を行った方が良いのか等、判断するべき点が他の環境より複雑で難しく感じますね。
生物同士の交換をミスった時にリカバリしてくれるはずの除去が弱いのもそれを助長していると思います。
こう言った環境では「戦闘で強い」生物をより評価する必要があると思います。
このような視点から見ると黒ながら不死を持つ《グールの解体人/Butcher Ghoul(AVR)》や緑の単純に大きい生物が環境的に強いのが理解されるかと思います。

AVRは戦闘や展開が難しいと言う点をISDから継承していて、プールや相手の展開から先を予測しないと「後から考えると損をしていた」プレイを防ぐのが難しいのだと思います。
何度も経験して体で覚えるしかない!とか言い出すと体育会系っぽいですねw

>東京
是非に!お忙しい中にお邪魔する事になるかも知れませんが、お言葉に甘えさせていただきます。
bun

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索