昔話などどうだろうか。

これはまだ、僕が必死に勝利を追いかけていた時の話。
その頃はまだ自分の力を信じ、追いすがっていけば、いずれ何者かに成れると、まだ辛うじて信じていた。
これは僕がどれだけ勝つ事を重視し、勝利を渇望していたのかを示すエピソードである。

かつて都道府県選手権と言うものがあった。

現在も行われているGamedayの前身であり、ベスト8進出者にはCHAMPSプロモが配布されていた。
その年、2006年のCHAMPSプロモは《セラの報復者/Serra Avenger(TSP)》であり、天使好きの友人に獲得を依頼されたのが、大会に出場する契機になった。
当時は、学校を卒業し社会人として生活する中で環境が変化し、大会参加頻度はともかくとして、練習時間の低下、情報源からの隔離などが原因で、特に経験や情報を必要とするスタンダードへの対応は厳しい物があった。
その頃はまだ人生において最も勝利に貪欲な時期であり、参加するからには勝たなければと考えていた為、練習不足を理由に大会参加を見送ろうとしていた。

今となっては練習ゼロで予選に参加するなど、進歩が見られるのか、見られないのか良く分からない珍妙な生態を晒している事を考えると、少なくとも当時の方が理性的な生き物であったと言えるだろう。

そんな状況にあっての友人からの依頼である。
就職後、徐々に衰退していくだけだった僕にとって、その依頼は嬉しいものであった。
自分自身ですら、己を見限ろうかと思うような環境にあって、かつての実績からか僕を頼ってくれたと言う事実が、僕を奮起させた。

が、それでいきなり状況が好転する訳でもない。

相変わらずの状況であったが、とにかく情報収集を始めて、デッキを用意した。
以下がそのデッキである。

イゼットトロン

2 吸収するウェルク/Draining Whelk
3 ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite

4 イゼットの印鑑/Izzet Signet
2 虹色のレンズ/Prismatic Lens
4 差し戻し/Remand
4 マナ漏出/Mana Leak
4 併合/Annex
4 撤廃/Repeal
2 電解/Electrolyze
3 燎原の火/Wildfire
4 強迫的な研究/Compulsive Research
1 連絡/Tidings

4 ウルザの塔/Urza’s Tower
4 ウルザの鉱山/Urza’s Mine
4 ウルザの魔力炉/Urza’s Power Plant
1 ウルザの工廠/Urza’s Factory
2 冠雪の島/Snow-Covered Island
4 蒸気孔/Steam Vents
4 シヴの浅瀬/Shivan Reef


正確な枚数や構成は忘れてしまったが、《悪魔火/Demonfire(DIS)》は入っていなかった。
何故かと問われればひたすらに疑問だが、恐らくこれが当時の限界だったのであろう。

もともと青のコントロール系のデッキは好きだったし、生物パワーインフレが今ほど酷くなかった、あの頃の《ボガーダンのヘルカイト/Bogardan Hellkite(TSP)》は圧倒的な力を持っていて、とにかく高速でマナを揃えて、自分だけが有利な場を築くと言うこのデッキのコンセプトは良く手に馴染んだ。
特に環境にセレズニアの様な中速ビートが跋扈していた事もあって、デッキ選択は妥当だったと思われる。

ちょうどこの頃にろせさんとの初顔合わせがあったり無かったりしたのだが、彼は後にあれよあれよと成長を遂げていく片鱗を、既にこの頃から伺わせていた様に思う。

詳細の記憶はないが、僕は無事に予選ラウンドを抜けてベスト8に入り、友人の依頼通り《セラの報復者/Serra Avenger(TSP)》を確保できたのは覚えている。

ほっとしたのも束の間。決勝ラウンドが始まる。

その時の僕の感情を、正確には思い出す事ができない。
目標を達成した安堵感は瞬間的に吹き飛んで、勝ちたいと言う気持ちを強く持っていた気がする。

決勝ラウンド1回戦目の対戦相手は、TheDog(ドッグ)タケモトであった。
このタケモトは、陽気な言動に、僕の加虐嗜好を巧みに刺激する話術を持っていた。
友人であり同時にライバルでもある、負ける訳にはいかない相手だ。
特に決勝ラウンドの初戦と言うこの場面にあっては、特にそうである。

そしてGame1は完敗。
《ロクソドンの教主/Loxodon Hierarch(RAV)》に手を焼いて《燎原の火/Wildfire(USG)》をプレイできないまま負けると言う圧倒的敗北であった。

・・・このままでは。負ける。

僕の脳裏を去来する敗北の幻影。
相手のデッキ構成は事前に知っていて、なおかつ自分の有利を信じていた上での敗北。
サイド後は《照らす光/Bathe in Light(RAV)》などデッドリーなインスタントが投入されてくるだろう。
メインを取りたかったところだが、既にGame1の敗北は覆しようがない。
サイドボード中はもとより、敗北が確定的になったGame1の時点から、既に僕は回答を模索していた。
確固たる決断を行うためには、確固たる自信が必要だが、Game1で既にそれは砕かれている。

自信の喪失。
それはGame1の敗北以上に重く僕にのしかかる。

何とかしなければ。
考えを巡らす。敗北のショックからの回復が急務だが、その手段は・・・。

あるぞ。そう。スイッチングウインバックが!

スイッチングウィンバックとは一流のスポーツ選手らが用いる精神回復法。
精神的に追いつめられたときにスイッチをきり変えるように闘志だけを引き出すことができる。と言うジョジョファンなら一度ならずお世話になるだろう精神的支柱である。
僕は一流のスポーツ選手ではないし、そもそもウィンバックスイッチングだと思っていたのだが、この際細かい事に拘泥してはいられない。

劇中・・・ワムウのスイッチは自身の目を潰す事だった。
人間である僕の身に取ってみれば、あまりにも重過ぎる代償である。
目を潰す。勝利のために・・・。いや。しかしあまりに重過ぎる。
聖闘士聖矢でも紫龍は目が潰れてからが本番では無かったか・・・。
いや。でもそれやっぱり漫画だし・・・。

煩悶の中で、圧倒的閃きが。
潰せないのなら・・・増やせば良いのだ。
正しくコペルニクス的転回である。

僕の外見を知る者なら誰でも知っているが、僕の額は秀でている。
僕は社会人になってから、社命で髪型をアップにする事を強いられたが、髪型を変えた瞬間、当時付き合っていた彼女に振られたほどの広さである。

この広大無辺の領域は、第三の目を開かせるためにあったのだ!

僕の世代にとって第三の目と言えば幽遊白書の飛影か、ドラゴンボールの天津飯である。
と言う訳で第三の目を開くために魔界医師であるいわ・・・仮にイワタと呼称しよう。
イワタを召喚したのである。

イワタは僕の覚悟を確かめた後、渋々を装いつつ意気揚々と「鑿を持て!鑿を!」などと叫ぶので、懇願して獲物を油性ペンにしてもらった。

会場ではなぜか水生のペンも用意できたのだが、認知的不協和理論によれば理不尽なほど当事者を説得する力は強いため、あえて油性での開眼を依頼した。
その理論で行けば油性ペンより鑿で彫りぬいてもらった方が効果は抜群なはずなのだが、社会人の立場にあって、その勇気は持てはしなかったのである。

いよいよ僕の第三の目が開かれる・・・と言う段になって、イワタから確認が入る。

曰く
「目は天津飯型が良いのか、それとも飛影型が良いのか」
と言う確認であった。

僕はどっちでも変わらんだろ。そもそも目の形って違うのかよと思いつつ飛影型を注文。
結局イワタの知識不足により天津飯型に落ち着くのだが、じゃあ聞くなよと言う話である。

紆余曲折あり、額に感じる確かな油性ペンの感触と共に、僕の第三の目は開かれた。

遂に邪眼開眼である。

油性ペンでしっかりと額に刻印されたその威容は、見るものに恐怖と違和感を与える。
思わず、こいつ・・・大丈夫か?と思わずにはいられない。

人は、その行動がどれだけ理不尽であろうと、理屈に合わなかろうと、自分が正しいと思う道を歩む時、自信を回復させる事ができる。

僕にとって、正しくこの施術は自信回復への道であり、その効果もあってかGame2はドッグ・タケモトを瞬殺。

Game3も激戦の末《ロクソドンの教主/Loxodon Hierarch(RAV)》を吸収した《吸収するウェルク/Draining Whelk(TSP)》が勝利をもぎ取った。

その時の勝ち台詞は
「邪眼の力を舐めるなよ」
であった。

もちろん飛影の台詞なのであるが、天津飯には第三の目についての決め台詞が存在しないため、致し方のないところではある。

その後、準決勝は快勝。

決勝戦は、岐阜の地において数々の伝説を花開かせる事になるY田Rイチローを激戦の末撃破。
2006年度、岐阜県最強の称号を見事に獲得したのだった。

その後は、額の目で会場にいた小学生を驚かせたり、そのまま(と言うか油性だから消せない)記念撮影に臨んだりして大会は終了。
幸いにして、その時の写真が世間に出る事はなかった。

それから後、僕の邪眼は開かないままだ。
僕がピンチになるたびに、特定のギャラリーからは
「邪眼書こうか?」
と言うオファーがあるが、断り続けている。

当時、魔界医師を勤めたイワタが遠い異郷の地である広島に赴任した事もあるだろうが、他の気分転換方を用意できた事の影響は大きい。
むしろ、今は邪眼なぞ書いたら非紳士的行為でDQではなかろうか。

人は、何が何でも勝利を目指す時、思いもかけない行動に出る事ができる。
その思いが強ければ強いほど、その行動は、自信となるし結果にも現れるだろう。

僕は今でも、あの時に邪眼を書いて貰わなければ、勝てはしなかっただろうと信じている。

方法は何でも良いだろう。
サイド中にトイレに立つのも許可が得られれば問題ないし、願掛けのアイテムを持つのも良いだろう。
自分の集中力と自信を高める何かしらの儀式があれば、それはきっと貴方を助けるだろう。

願わくば、その儀式が貴方に幸運と勝利をもたらします様に。

それでは。良いMTGライフを。

コメント

ろせ
2010年8月31日22:06

>dog
懐かしすぎるwwww

>「目は天津飯型が良いのか、それとも飛影型が良いのか」
吹いたwwwwww

面白かった。が、俺はbunさnのことは前回の都道府県(けちこん)の時から知っているwwww本殿がサイドに入ってるやつ。同じサイドプランで、
「こいつ、できる」ってなったのを思い出した。

Aki
2010年8月31日22:08

もうタイトルからワクテカが止まりませんでしたよ!!!
そして日記を読み終わるまで訪れる腹痛の嵐(笑いすぎ的な意味で)!!
ありがとうございましたあああああああああああwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


当時はまだbunさんとそれほど親しくなかったころ。bunさんが勝ち上がる中、僕は自慢のFlyingMenデッキを使って2-3してました。
ちなみに決勝2回戦の相手は不死鳥だった気がします。

oppo
2010年8月31日22:18

タイトルから、3/6壁以外にブロックされない邪眼さんのお話かと思いました・・。

制約と誓約的なものでしょうか、油性。

邪眼効果で勝ってしまうのがカッコいいですね!
面白いエピソードで、楽しく読ませていただきました。

D
2010年8月31日22:29

こんばんわ。
楽しく読ませてもらいました。やっぱりリアルな体験談は面白いですね(笑)

今度機会が有ったら試してみます。

bun
2010年8月31日22:45

こんばんは。

>ろせさん

>Dog
ドッグ(フード)タケモト懐かしいよね。

>時期
ありゃりゃ。そう言えば、認識してる時系列と逆転してるよね。
けちコン使ってたのは知ってたはずだから、タイムスパイラル以前には知っていたと言うか、デッキ作ってもらう様になっていたっけ?
デッキは、この次の都道府県選手権には作ってもらっていたのを覚えてるんだけど・・・。

>Akiさん
何かいつの間にか仲良くなってたよね。
知ってるのは、知ってたはずなんだけど。MTGプレイヤーならではの距離感ではある。

>自慢のFlyingMenデッキ
クソ笑ったw

>準決勝
あー。フェニックスだったんだ。何か幻魔拳とか言ってた気がするなw

>oppoさん
《オームズ=バイ=ゴアの邪眼/Evil Eye of Orms-by-Gore(TSB)》いましたねー。
Fires全盛の頃にカウンター・ゴアを使っていたのを思い出しましたw

楽しんで頂けて何よりです。
やっぱり、ある程度覚悟が必要な事の方が、説得力がある気がします。
制約と誓約的な物ですね。

>Dさん
恐ろしいのは「社会人になってから」のお話なんですよねw
Dさんにも見てもらいたかったな。

武勇伝を期待していますが、くれぐれも良く吟味なされますようにw

dds666
2010年8月31日22:49

邪眼wwwwwww
この話はもっと評価されるべきwwww

nophoto
duka
2010年8月31日23:02

dogと聞いてやってきたが、
スタンダード=絶対関わってない ことに気づき、
泣いた

ラッチ
2010年8月31日23:06

これはwww
たしかにそれ位やれば吹っ切れて、自信がみなぎってくるようになるような気がします!!

bun
2010年8月31日23:39

>dds666さん
割と黒歴史なんですけどねw
「克己心」と「勝ちたい気持ちの発露」なんですけど、こんな事になってしまいました。
2度とはやりませんw

>dukaさん
そんな泣かんでもw
一応、昔《根の壁/Wall of Roots(TSB)》が入った緑青ターボランドを貸してもらった事があるぞ。

>ラッチさん
本当はこう言う時には、どれだけ練習したのか、どれだけデッキ構築に心血を注いだのかと言うのが自信につながるはずなんですが、どちらも無いのでw

「根拠のない自信」と言うのも以外に強い気はします。

nophoto
四日市
2010年9月1日7:26

>「邪眼の力を舐めるなよ」

かっこよさすぎる!!
自分もいつかやってみたいですね・・・

bun
2010年9月1日12:22

>四日市さん

目の形は天津飯なんですけどねw

競技者としては、何事もなく勝てると言うのが1番なのでしょうが、どうしても追い詰められてしまうと言う時はあると思います。
そう言う時に限らず、自分が平常心でないと思った時には、深呼吸でも自分にビンタでも何でも良いので、気分の切り替えスイッチの様ものがあると良いかと思います。

もちろん額に邪眼を書くのも手段の1つですが、お勧めはしません。
負けた時のアイタタ感がハンパないのでw

maa
maa
2010年9月1日13:02

この話はすごいwwww

take
2010年9月1日14:17

私の記憶が確かなら、
「邪眼でも書いてみたら?」と、
耳元で囁いていた、悪い人を見た気がするぅ

bun
2010年9月1日18:32

>maaさん
昔は僕もなりふり構わずに勝ちたい時期がありました。
今はここまで突飛な事はやりません・・・と思いますけどw
黒歴史ながら良い思い出です。

>takeさん
と言うか、あの場でギャラリーしていたほぼ全員が「書いちまえよ!」って言う感じだったと思う。
みんな、あの場で僕が負けてたらどうするつもりだったんだw

将軍
2010年9月1日19:31

>髪型を変えた瞬間、当時付き合っていた彼女に振られたほどの広さである。
bunさん、悲しみを背負いすぎだろwwww
でも、これで優勝したのは素直にすごい!

bun
2010年9月1日20:35

>将軍
だってしょうがないじゃん(ノ△・。)
今はもうネタにできるけど、笑って話せる様になるまでは、時間がかかったな。

無駄に追い詰められていたから、勝てた時は嬉しかったよ。
こうしてジンクスは生まれていくのだな・・・。

bun

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